スマホを置いたのは、ほんの少しのつもりでした。
通知が鳴るたびに画面を見て、何か新しいことが起きていないか確認して、気づけば何度も同じ場所を見ていました。
別に急ぎの用事があったわけではありません。
それでも手は自然にスマホへ伸びて、目は小さな画面の中を探していました。
その日、ふと疲れたような気がして、スマホを机の上に置きました。
画面を伏せると、部屋が少し静かになったように感じました。
何もしていない時間が、最初は落ち着きませんでした。
何かを見なければいけないような、何かを逃しているような、そんな気持ちが少しだけ残っていました。
でも窓の外を見ると、空がありました。
いつもそこにあるはずなのに、ちゃんと見るのは久しぶりでした。
雲はゆっくり動いていて、光は少しずつ形を変えていました。
空は何も言わないのに、急がなくてもいいと言っているようでした。
ネットの中では、誰かの言葉が流れていきます。
楽しいものもあれば、疲れるものもあります。
比べなくてもいいのに比べてしまい、気にしなくてもいいことまで気にしてしまう日もあります。
でも空を見ているあいだは、誰かの速さに合わせなくてよくなりました。
ただ雲が流れて、鳥が遠くを飛んで、夕方の色が少しずつ町に落ちていくだけでした。
それだけなのに、不思議と気持ちが軽くなりました。
スマホは便利です。
知りたいことも、見たいものも、誰かの声も、すぐそこにあります。
けれど、ときどき置いてみないと、自分の心がどれくらい疲れていたのか分からないのかもしれません。
画面の中にはたくさんの情報があります。
でも空には、情報ではなく余白がありました。
その余白の中で、私は少しだけ自分に戻れた気がしました。
スマホを置いて空を見た日。
特別な出来事は何もありませんでした。
でも、何も起きない時間が、こんなにもやさしいものだったことを思い出しました。
たまには画面から目を離して、空を見るだけでいい。
それだけで一日は、少し静かに整っていくのだと思います。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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