いつもなら、スマホの画面に小さな通知が浮かぶ。
誰かが投稿に反応したこと。
誰かが新しい言葉を流したこと。
世界のどこかで、何かが起きていること。
けれど今夜は、何も鳴らない。
机の上に置いたスマホは、眠っているように静かだった。
最初は少し気になった。
通知の設定を変えてしまったのか。
通信が切れているのか。
それとも、誰からも見られていないだけなのか。
画面を開けば、Xには今日も多くの言葉が流れていた。
怒っている人。
笑っている人。
誰かに気づいてほしい人。
誰にも見つからないように、静かにつぶやく人。
そこにはいつもの世界があった。
ただ、自分のスマホだけが鳴らなかった。
しばらく画面を眺めたあと、私はスマホを伏せた。
窓の外から、遠くを走る車の音が聞こえた。
冷蔵庫の小さな動作音も、時計の針が進む音も、普段よりはっきり聞こえる。
通知がない夜は、思っていたより静かだった。
そして、その静けさは少しだけ不安で、少しだけ心地よかった。
誰かの反応を待たなくても、夜は進んでいく。
投稿が広がらなくても、書いた言葉が消えるわけではない。
誰にも見られていないように思える時間にも、自分が考えたことや感じたことは、確かにここに残っている。
いつの間にか、通知が鳴ることを安心だと思うようになっていた。
誰かが見ている。
誰かとつながっている。
自分は一人ではない。
その証明を、小さな音に求めていたのかもしれない。
けれど、通知が鳴らないからといって、本当に一人になったわけではない。
見えないところで眠っている人がいる。
忙しく一日を終えた人がいる。
言葉を返さず、ただ投稿を読んでいる人もいる。
反応がないことと、何も届いていないことは、同じではない。
夜が深くなるにつれて、スマホの存在が少しずつ遠くなっていった。
温かい飲み物を入れて、読みかけの本を開く。
誰かの言葉が絶え間なく流れる場所から離れると、自分の中に残っていた考えが、ゆっくり形を取り戻していく。
明日のこと。
昔のこと。
本当は書きたかったこと。
通知に追いかけられているときには聞こえなかった、自分自身の声だった。
その夜、最後までXの通知は鳴らなかった。
それでも、不思議と寂しくはなかった。
静かな夜には、誰かとつながるための音ではなく、自分とつながるための時間が流れていた。
スマホの画面を消すと、窓の向こうに暗い空が広がっていた。
世界は何も言わず、ただ静かにそこにあった。
通知が鳴らない夜も、悪くない。
そんなことを思いながら、私はいつもより少し早く目を閉じた。
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